平成19年10月に李亞さんから頂いた水銀燈と翠星石の絵。
第一回夏期水銀党本部フェスティバルで冬月が出展したSS、Ouvertüre Another Story―what a wonderful world―の作中のワンシーンを描いて下さいました。
同SSは2006年12月に放送されたアニメ版ローゼンメイデンの特別編『ローゼンメイデン・オーベルテューレ』のシナリオをベースとしながらも、「未来は変えられる」という、冬月からローゼンファンへの強いメッセージがこめられています。
水銀燈と真紅が反目し、そして水銀燈の心をかたく閉ざす原因となった悲劇が描かれた原作へのアンチテーゼとして、冬月はもう一つの可能性を追求しました。
それは、ローゼンメイデンという姉妹がアリスを目指し「アリスゲーム」という争いを繰り広げる中にあって唯一、最初から最後まで姉妹愛を貫き「アリスゲーム」を止めようとしてきた第三ドール翠星石という可能性。
翠星石のひたむきな愛が、水銀燈を、そしてローゼンメイデンを変えていく鍵となる・・・この絵では、そんな同SSにとって最も重要な要素である、翠星石の心の温もりが表現されています。
SSの一節を引用します。

ソファに横たえると、少女はうっすらと目を開けた。

 

「お、気が付いたですか」

 

こうして見ると、優しそうな顔をしてるじゃないですか。

翠星石は、少し安堵した。

 

だが少女は、すぐにまた泣き始めた。

 

「お父様はどこ?お父様は・・・」

 

「えーっと、残念ですが、あなたのお父様はここにはいないのですよ」

 

「じゃあ、どこにいるの!?教えて!」

 

「いや、実は翠星石も、自分のお父様に会ったことがないもので・・・」

 

「嘘よ!お父様は、お父様は・・・」

 

「うーん・・・」

 

困ったように頭を掻いて、翠星石は立ち上がった。

 

「しゃあねえです、翠星石が茶を淹れてやるです。飲んで落ち着くです」

 

数分後。

小さなティーカップ二つとティーポットをトレーにのせた翠星石が帰ってきた。

 

「待たせたです、翠星石は茶には詳しくないので茶葉がなんだとかよくわからないですが、まあ飲みやがるです。あ、ここには牛乳も砂糖もないのでストレートで我慢するのですよ」

 

少女はすっかり泣きはらしてしまって、時折しゃくり上げている。

 

「ほらほら、何をいつまでもめそめそと泣いてやがるですか。みっともないったらありゃしねえです。さ、飲んで飲んで」

 

さっきまで自分が泣いていたからあまり人のことは言えないのだが、翠星石は例え自分は泣いても、誰かが泣くのは見たくなかった。

 

「ところで名前はなんというです?あ、翠星石は翠星石って名前ですよ」

 

「名前・・・?」

 

少女が、ぼんやりと顔を上げる。

 

「名前がないと、なんて呼んだらいいのかわからないです」

 

少女は、しばらくぼんやりとした後、意味を理解して小さく呟いた。

 

「・・・水銀燈」

 

「すいぎんとう?」

 

 

 

「そう、水銀燈。ローゼンメイデン第一ドール」

 

少女は、確かにそう言った。

 

 

 

「・・・・・・ローゼンメイデン第一ドール!おお、そうだったですか!!」

 

翠星石は満面の笑みで、水銀燈と名乗った少女に抱きついた。

 

「初めましてです!翠星石はローゼンメイデン第三ドールなのです!」

 

「うわっ・・く、苦しい・・・」

 

今度は水銀燈がじたばたする番だった。

でも翠星石は、そんな事はお構いなしだ。

 

「第一ドールに会ったことがなくて、どんなお姉さんなのか前から一度会ってみたかったんですよ!よく来てくれましたです、会えてとっても嬉しいです!」

 

「わ、わかったから放して・・・」

 

「そうだ、クッキーも食べますか?こないだ蒼星石・・・ああ、双子の妹のことなんですけど・・・が焼いてくれたクッキーがあるです!蒼星石のクッキーはとっても美味しいですよ!食べますか食べませんか?」

 

「た、食べる、食べるから・・・」

 

現れて早々、翠星石のペースに飲み込まれる水銀燈。

本人も気がつかないうちに、涙は止まっていた。

 

 (中略)

 

ようやく落ち着いて、翠星石はクッキーをつまみながら、水銀燈からここへ来るに至った事情を聞かされていた。

 

「それで、お父様の手がかりを探してnのフィールドをさまよっていたら、偶然ここへ来たの。ああ、お父様はどうして私を・・・」

 

再び落ち込んで鼻声になる水銀燈。

 

「ま、まあ待つです!翠星石には、お父様が水銀燈を作りかけでほっぽらかすなんて思えないです」

 

「じゃあ、どうして・・・?」

 

「それはですね、えーっと・・・あ、わかったです!きっと、お父様がトイレにでも行ってる間に、水銀燈が夢遊病で工房から出てきちまったんじゃないかと思うです」

 

「・・・・・・」

 

「やや、今のは冗談なのです!そんな呆れたような顔をするなです!」

 

「・・・うふふ」

 

「え?」

 

翠星石は、驚いた。

水銀燈が、初めて笑ったからだ。

それは翠星石が思わずはっとするような、天使のような優しい微笑み。

 

「ごめんなさい、翠星石って、なんだか面白くて・・・あれ、どうかした?」

 

「・・・水銀燈は、そうやって笑ってるのが一番似合ってるですよ」

 

言った次の瞬間には、翠星石は顔を真っ赤にしていた。

 

「な、なんでもないです!それより水銀燈、さっきからどうして茶を飲まないんです!翠星石の茶が飲めねえっていうですか!?」

 

「違うわよ、ただ熱くって。飲みたいんだけれど・・・」

 

「そうだったんですか。仕方ないですね・・・」

 

翠星石は、水銀燈のそばに身を寄せて、ふう、ふう、とカップの中の紅茶に息をふきかけた。

 

「こうやってふうふうしたら冷めるです。全く、世話の焼けるお姉さんです!ほら、ふうふうって」

 



絵の中で、水銀燈はティーカップを、翠星石はティーポットをそれぞれ手にして微笑んでいます。
穏やかな光景は、見ているだけで幸せになります。
翠星石のひたむきな想い、そして何より描いて下さった李亞さんの真心が伝わってくる一枚です。

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